先日ある方とのお話の中で、「教えるというのは難しい」という話題が出ました。
その方の教える相手というのは20歳前後の学生さん。
「もうね、何度伝えてもその通りにできないし臨機応変に対応するということが全くできないの!!!」
そんな学生さんを何人か抱えているそうなので、毎日ヘトヘトになるわ〜、と疲れ切った顔で話してくれました。

自分が得意なことを教えることは難しい
そうなんです。
実は、自分ができることを教えるというのは案外難しいものなんです。
私はピアノの他にも英語や数学を教えていますが、実はこのすべてにおいて落ちこぼれでした。
ピアノに関しては高校時代、クラスにはコンクールで賞をとる友達がたくさんいる中で、なんだか場違いなところにきたかな・・・と感じていましたし、英語の文法なんて中学の最初からつまずいていましたし、数学も高校のものはさっぱりわかりませんでした。
たまたま運が良く大学まで行けましたが、学生時代、特に高校時代は苦労しました。
そんな苦労をしてきたので、その分野で人に伝えようとすると、どこが理解しにくくて、何につまずいてしまうのかがなんとなくわかります。
だから教える時には1からでなく、0から、もっと言えばマイナスから教えるようにしています。
何もわからない人にしてみれば、当たり前にできるであろう前提のことさえもわからないのです。
そこが、苦労なくできてきた人にとっては、なぜこんな当たり前のこともわからないの?となってしまうんです。
味噌汁の具材はみじん切り!?
普段料理をしたことがないような人が栄養士の資格を取ろうと勉強中で、その人にお年寄りが食べる食事を作ってもらう実習があったそうです。
味噌汁の作り方を書かせると、ジャガイモとナスをみじん切りにする、と書いてある。
以前ほかの料理で、「食べやすい大きさ」と記入し、これではどのくらいの大きさかわからないでしょ、と指摘されたので、「きゅうりを1センチの長さに切る」と書き、「こんなに大きかったらお年寄りの口には大きすぎるでしょ」、と言われた経験を生かし、今回は材料はみじん切りにする、と書いたのです。
もう一度言います。
味噌汁を作るんですよ。
火を通すわけですから、具材は柔らかくなりますし、ジャガイモなんかはみじん切りだと溶けてしまいますよね。
実際に料理をしないので、そこまで見通しが立たなかったというわけなんです。
まあそんな人が栄養士になるというのもどうかとは思いますが、主婦歴が長い人には分かっていても、経験が浅く、それまでほとんど料理をしたことがない人にとってはそれすらもわからないのです。

「これはできて当然」という考えは持ってはいけない
私もよく「なんでそんなこともできないの!」「なんでそんなこともわからないの!」と叱られてきましたが、できないものは出来ないし、わからないものはわからないんです。
教える側は、まず、できて当然、知っていて当然、という考えを捨てることが重要です。
できないことを責めたり、わからないことをなぜ?と問い詰めるのではなく、これがわからないのであれば、そのレベルまで下がること。
なぜこのレベルにいないの!と責めてはいけません。
どこまで徹底するかは何を教えているかにもよる
教えているのが趣味や楽しみのものならば・・・
ピアノなど、その人にとっての楽しみに関して教えているのであれば、できないことに厳しく言う必要はありません。
レッスンで同じことを何度も何度も繰り返せば、ある程度は上達します。
ですから、練習してこないことに関してはあまり強要するようなことはしません。
そのうち何となくできるようになり、気がついたらうまく弾けるようになっている、たいていの生徒さんがこのパターンです。
それでいいと思います。
勉強や資格などであれば・・・
これに関してはやはり徹底して教えていく必要があります。
いつまでに理解し、そしてできるようにならなければならない、ということもありますし、彼らの将来に関わってくることでもありますから。
ただし、生まれ持った能力、これまでの成長の過程でそれに対する力がつかなかったのは彼らのせいではないので、そこを責めてはいけません。
しかし、できるようにしようと努力をしないことに対しては徹底的に指摘するべきです。
私のレッスンでは、わからないことや忘れてしまったことに対しては何回でも教えます。
その際「なぜ覚えていないの?」「なぜわからないの?」とは言いません。
「何回でも聞いていいよ、わかるまで何回でも教えてあげるからね!」と伝えています。
生徒さんも、わからないことでは私は叱らないと分かっっているので、「なんでこうなるの?」としつこく聞いてくれます。
ですから、生徒さんも私も「できない」ということに関してお互い感情を使うことはありません。
ただ、宿題をやってこない時には厳しく叱ります。
やってできないことは、できるようになるまでいくらでも付き合いますが、努力してこない生徒さんには最終的にはやめて下さい、とお伝えしています。
本当に習得しなければいけないことに対して努力してこないのであれば、それは毅然とした態度を見せるべきです。
そこは教える側の責任でもあると思いますので。
まとめ
教えるということは自分が何も考えずに出来ることを、できない人に教えなければなりません。
その分野に関して得意である、という人にとっては、なぜ自分はそれができるのか、わかるのかを細かく考える必要があります。
こんなことは誰もがわかることだから、という考えではわからない人に教えることはできません。
習いにきている人は、教科書に書いていないことがわからないのです。
そして、わからないことを責めず、反対に努力しないことには毅然とした姿勢を見せる。
教えることはとても大変だし、忍耐がいることですが、生徒さんが理解し、できるようになった時に得られる喜びは大変大きいものです。
こんなこともできないなんて・・・と嘆く前に、なぜわからないのか、なぜできないのかをしっかり考えてあげてみてください。
その熱意はきっと生徒さんに伝わり、生徒さん自身も大きく成長してくれるはずです!