「おすすめの一冊を」と言われた時にお伝えするのが、三浦しをんさんの「舟を編む」です。
これは、辞書の編纂にまつわるお話。
映画化されていて、主人公は松田龍平さんが演じられています。
わたしは映画から入ったので、後で本を読むと、まるで最初から彼を主人公として書いたのではないか、というぐらいはまり役でした。
辞書作りに人生を捧げている玄武書房に勤めている定年間近の荒木は、辞書編集部を引き継ぐことができる人材を探し、営業部にいた馬締光也という社員を引き抜く。 ちょうど玄武書房で新たに「大渡海」という辞書を作ることになっており、その編集を彼に任せることに。 彼のアパートは本で一杯、さらに大学院では言語学を専攻するほど言葉に興味があった。 辞書作りにはぴったりの人材でなのだが、少々トンチンカンな彼は、編集部に馴染めず悩む。 しかし、下宿先のおばあさんに、「みちゃんは、職場の人と仲良くなりたいんだね。仲良くなっていい辞書を作りたいんだ」と言われ、改めて自分には「伝えたい」そして「つながりたい」という感情があることに気づく。 編集部のメンバーも、そんな馬締の姿勢に感銘を受け、次第に辞書作りに情熱を持ち始めるが…
辞書を作ることがどれだけ大変なことなのかをはじめて知りました。
というより、そんなことは考えたこともありませんでした。
現状ある言葉だけでなく、様々な場所で新しく出てくる日本語を集めていく。
その数は24万語を超えるそうです。
その気が遠くなるような数の言葉を一つ一つ丁寧に定義づけしていく。
さらには辞書にするための紙を選ぶ工程。
そして大学生を使って何日も寝ずに行われるチェック工程。
どれをとっても気の遠くなる作業です。
読了語、思わず家にある辞書を手に取ったのはいうまでもありません。
映画を見る前は地味な印象を受けたこの作品ですが、辞書作りという、決して華やかではない作業に、周りが徐々に情熱を注ぎ出し、何度もおとづれる修羅場を乗り越えながら完成を目指していく、読んでいて何度も感情が動かされました。
辞書の名前である「大渡海」について
辞書は、言葉の海を渡る舟だ。
人は辞書という船に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっとふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう。
海を渡るにふさわしい舟を編む。
なるほど、だから「舟を編む」。
意味もさることながら表現もとても素敵。
読んでいてとても心地が良いです。
映画を見た人でも、ぜひ本も一緒に読んでほしいです。
この作品は、自分の中でモチベーションが下がった時や、達成感を感じたくなった時に読みたくなる一冊。
2012年、本屋大賞を受賞したこの作品、お勧めです。